スライドのつくりかた

研究発表スライド作成の基本

研究発表のスライドを作るときは、いきなりスライド作成ツールを開くのではなく、まず全体の設計図を作る。物を作るときに設計図が必要なのと同じように、スライドにもラフスケッチが必要である。先に発表全体の流れを決めておかないと、作成中に話の筋道を見失いやすい。まずはA4用紙を1枚用意し、次の手順で発表を設計する。

1. 発表時間を確認する

最初に、発表時間を確認する。たとえば、発表時間が10分であれば、スライド枚数は10枚前後を目安にする。基本的な目安は、1スライドにつき1分である。

もちろん、タイトルスライドや短い接続用スライドもあるため、厳密に1枚1分にする必要はない。ただし、発表時間とスライド枚数が大きくずれていないかを確認するための基準にはなる。

2. スライドの枠を並べる

発表時間と同じ数だけ、スライドを表す四角形を縦に並べる。たとえば10分発表であれば、紙に四角形を10個ほど描く。4コマ漫画の枠を縦に並べるようなイメージでよい。










この段階では、内容を細かく考える必要はない。まずは発表全体の大きさを目に見える形にする。

3. 各スライドのタイトル案を書く

それぞれの枠に、各スライドのタイトル案を大まかに書く。最初から正確なタイトルを考える必要はない。発表の流れが分かる程度の、仮のタイトルでよい。

たとえば、次のように並べる。

  1. 背景
  2. 課題
  3. 関連研究
  4. 関連研究の問題点
  5. 目的
  6. 方針
  7. 提案手法
  8. 評価方法
  9. 評価結果
  10. まとめ

ここでは、各スライドの見た目ではなく、発表全体の論理構成を考える。

4. 各スライドのキーフレーズを書く

各スライドの横に、そのスライドで最も伝えたいことを1文で書く。この1文を、そのスライドのキーフレーズとする。スライド作成の基本は、1スライド1メッセージである。

たとえば、タイトルが「課題」であれば、単に「現在の手法には問題がある」と書くのではなく、次のように具体化する。

既存手法では、観測できるノードが限られる場合の検知性能が明らかになっていない。

この1文を読めば、そのスライドで何を伝えたいのかが分かる状態を目指す。

5. キーフレーズを基に枚数を調整する

キーフレーズを書いてみると、1枚では説明しきれないスライドや、逆に内容が少なすぎるスライドが見つかる。その場合は、スライドを分割したり、統合したりする。

たとえば、「提案手法」で伝えたいことが1文に収まらない場合は、次のように分ける。

  • 提案手法1:全体像
  • 提案手法2:実装詳細

反対に、「関連研究」と「関連研究の問題点」の内容が少ない場合は、1枚にまとめてもよい。スライド枚数を最初に決めた数へ無理に合わせるのではなく、伝える内容に応じて調整する。

6. キーフレーズをつないでストーリーを確認する

すべてのキーフレーズを順番に読み、発表全体が1本のストーリーとして成立しているかを確認する。特に重要なのは、前後のスライドのつながりである。

たとえば、次のような流れになっているかを確認する。

このような背景がある。

しかし、現在はこの課題が残っている。

関連研究では、この課題に対してこのような方法が提案されている。

ただし、既存研究にはこの問題がある。

そこで、本研究ではこの問題の解決を目的とする。

そのために、この方針を採用する。

具体的には、この手法を提案する。

この方法で提案手法を評価する。

その結果、このことが分かった。

以上から、この結論が得られた。

キーフレーズだけを読んでも話が通じるなら、発表の骨格はおおむね完成している。ここまでできたら、スライド作成ツールでの作業に移る。


スライド作成ツールでスライドを作る

1. キーフレーズを配置する

事前に作成したキーフレーズを、各スライドに配置する。キーフレーズは、そのスライドで最も伝えたい内容である。スライドのタイトルとは別に、結論や主張が分かる形で大きく示す。タイトルが単なる項目名になっている場合でも、キーフレーズを読めば内容が分かるようにする。

2. サブフレーズを追加する

キーフレーズだけでは説明が不足する場合は、それを補強するサブフレーズを追加する。

サブフレーズには、主に次の役割がある。

  • キーフレーズの根拠を示す
  • 用語や条件を補足する
  • 前後のスライドとのつながりを示す

ただし、文章を増やしすぎないようにする。1枚のスライドに置く文章は、箇条書きで3項目程度までを目安にする。 文章が多すぎる場合は、内容を削るか、スライドを分ける。

3. 絵で説明できるものは絵にする

図や模式図を見れば理解できる内容は、文章だけで説明しない。

たとえば、次のような内容は図に向いている。

  • システムの構成
  • 処理の流れ
  • 通信経路
  • 提案手法の全体像
  • 既存手法との違い
  • 実験環境
  • 評価結果の比較

文章は、図だけでは分からない要点や結論を補うために使う。図を置くだけではなく、その図から何を読み取るべきかをキーフレーズで明示することが重要である。


発表練習と時間調整

スライドが一通り完成したら、実際に発表して時間を測る。発表時間に合わない場合は、話す速度を無理に変えるのではなく、ストーリーやスライド構成を調整する。

時間を超過する場合

どうしても発表時間を超える場合は、ストーリーの中で比重の軽い部分を削る。

たとえば、次のような調整を行う。

  • 「関連研究」と「関連研究の問題点」を1枚にまとめる
  • 実装の細部を省略する
  • 評価条件の説明を簡略化する
  • 発表の結論に直接関係しない結果を削る

重要なのは、すべてを説明することではなく、発表の中心となる主張を時間内に伝えることである。

時間が余る場合

どうしても時間が余る場合は、説明が不足している部分を増やす。

たとえば、次のような調整が考えられる。

  • 「評価結果」を複数枚に分ける
  • 提案手法の具体例を追加する
  • 図の読み方を説明する
  • 結果の解釈や考察を追加する

ただし、時間を埋めるためだけに情報を増やしてはいけない。発表の理解に必要な内容を補う。


原稿を読み上げない発表

発表時に原稿を読み上げる形式は、なるべく避ける。

原稿を読み上げると、主に次の問題が起こる。

  1. 抑揚が平坦になり、重要な箇所が伝わりにくくなる
  2. 息継ぎや間の取り方が不自然になり、聞き手が内容を追いにくくなる

ただし、これは発表原稿をすべて暗記するという意味ではない。話すために必要なキーワードは、スライドに書かれていることを前提とする。発表中は、そのキーワードを見ながら、その場で文章として組み立てる。

スライドのキーワードを見る

キーワード同士の関係を確認する

自分の言葉で文章にして説明する

発表者にとってスライドは、聞き手に見せる資料であると同時に、話す内容を思い出すための手掛かりでもある。


全体の流れ

スライド作成の手順をまとめると、次のようになる。

発表時間を確認する

予定枚数分の枠を紙に描く

各スライドの仮タイトルを書く

各スライドのキーフレーズを1文で書く

キーフレーズを基に枚数を調整する

全体が1本のストーリーになっているか確認する

スライド作成ツールにキーフレーズを配置する

サブフレーズや図を追加する

発表練習をする

時間に合わせて削減・追加する

最初にスライドの見た目を作るのではなく、まず発表全体のストーリーと、各スライドのメッセージを決めることが重要である。